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リレーコラム うさぎの小箱

文化施設の進化―「市民性」と「芸術性」の交点で 鈴木 滉二郎(文化政策研究者)
鈴木滉二郎氏は、芸術文化の創造を担うべき「市民」という概念を捉えなおし、真の意味での「市民」とは「芸術家」なのではないかと問い続けています。それは「芸術家」の創造的な価値創出こそ、「市民」が有すべき条件であるということを意味しているのでしょうか? 複眼的で、幅広いご見識をお持ちになる文化政策研究の第一人者、鈴木滉二郎氏に、ホットな話題を切り口に論じて頂きました。
文化拠点の条件
 いま劇場法の制定がさかんに取り沙汰されている。

 公立文化施設が全国に二千数百もありながら、その多くがいわゆる貸しホールであり、芸術創造や市民文化の形成という面で十分な役割を果たしていないことを考えると、美術館や図書館のように根拠法を定めて、専門職の配置や施設のミッションを明確にしていくことは歓迎すべきことであるかもしれない。

 しかし一方で、法律が制定されていない中でも、芸術創造の成果を上げ、確固たる市民文化を形成しつつある文化施設が、わずかではあるが存在しているという事実もある。同じ自治体による「公の施設」でありながら、こうした差は、何に由来するのだろう。

 また「公の施設」ではないが、廃校や旧銀行ビルなどを借り受けたり、指定管理者となって、見るべき文化創造の成果を示している文化拠点も増えてきている。  

 「公の施設」にせよこうしたオルターナティブ・スペースにせよ、文化を創造する拠点となる条件とは何だろうか。
市民主導の文化創造 ~群馬交響楽団

 古い話になるが群馬県高崎市では、戦後いち早く市民たちがオーケストラ活動を支え、この群馬交響楽団(1947年プロ化)の拠点として、群馬音楽センターを実現した(1961年)。ホールの建設事業費3億5千万円の三分の一近い1億円が市民からの寄付であったというが、国も、市民の熱意を受け止め、ホール建設の補助制度を新たに創り、補助金を交付している。

 高崎市民の活動の中心には、土地の実業家井上房一郎がおり、房一郎はかつて、美術家を目指して自ら7年間パリに学んでいるが、留学以前には高崎で、当時珍しかった輸入レコード盤によるコンサートなども開催している。

 まさしく群馬音楽センターは、「市民性」と「芸術性」の交点に、誕生したのであるが、これがその後の文化ホール建設のモデルとはならなかった。

 全国の多くの自治体では、ホール建設の補助制度や起債による建設を当て込んで、見るべき芸術活動や文化的ソフトも無いのに、行政の一方的な施設整備計画のみで、安易にホール造りが進められた。
専門家、芸術家と共に

 しかし、「市民性」も「芸術性」も欠いた装いだけの文化ホールは、創造・市民文化形成の拠点となることなどできない。そればかりか、設置者である多くの自治体は、管理運営に、お役人や官主導でつくられた運営財団への出向職員を充て、いっそう創造とは無縁の施設にしてしまったのである。

 日本近代に公共劇場が誕生しなかった根本理由は、まさしくこの二つの概念を欠いていたからであり、したがって文化施設の創造的進化の条件は、言うまでもなく「市民性」と「芸術性」なのである。

 そしてこの進化のキーワードを最もよく実現し得るのは、芸術家と文化政策やアーツマネジメントを専門的に学んだ人材、そしてこうした芸術家、専門家と共に文化を創る市民の存在である。芸術には地域の潜在的な文化力を掘り起こす力があるが、その実現はこれらの人びと無くしては果たし得ない。

「2010月見の里学遊館アートプログラム」は、「市民性」「芸術性」という二つの概念がしっかりと貫かれている。その進化ぶりには目を見張らされるが、この進化の先に生まれるものこそさらに楽しみである。

鈴木 滉二郎(文化政策研究者)
プロフィール
鈴木滉二郎
文化政策研究者
1944年生まれ(岩手県奥州市(旧水沢市)出身)。
1968年早稲田大学第一法学部卒業後東京都庁に入り、企画審議室計画課長、報道課長、教育庁部長等を経て98年東京文化会館副館長(兼(社)全国公立文化施設協会常務理事)。
2003年県立高知女子大学教授。06年より10年まで静岡文化芸術大学・同大学院教授、(07-08年大学院文化政策研究科長)。10年3月退職と共に同大学・大学院及び跡見学園女子大講師。文化庁派遣芸術家在外研修員選考委員、芸術文化振興基金運営委員会専門委員等歴任。
日本文化政策学会・文化経済学会<日本>理事、(財)演劇人会議理事、静岡県文化政策審議会副会長、静岡県舞台芸術センター(SPAC)評議員、(社)全国公文協アドバイザー等
第八回 港大尋氏(作曲家/ピアニスト/月見の里学遊館レジデンスアーティスト2011)
第七回 戸舘正史(月見の里学遊館企画スタッフ/アートマネージャー)
第六回 戸舘正史(月見の里学遊館企画スタッフ/アートマネージャー)
第五回 平井洋氏
第四回 山森達也氏
第三回 鈴木滉二郎氏
第二回 倉田布美江氏
第一回 大岡淳氏インタビュー